福祉・敬老パス
横浜市の敬老パスは年145億円。削る議論の前に知っておきたい負担金と使える範囲

この記事の要点
- 敬老パスは市内在住の70歳以上が対象。交付者は約40万人で、対象者のおよそ半分が持っている
- 本人の負担金は所得に応じて年0円〜2万500円。交通事業者への負担金127億円のうち、約85%は市税
- 2026年度の事業全体の予算は145億9,800万円で、前年度より約8億7,000万円増えた
- 新市長の選挙公約に敬老パスへの言及はない。何をどうするのか、まだ市民には見えていない
横浜市の敬老パス(正式名称は敬老特別乗車証)は、2026年度の予算で145億9,800万円の事業です。横浜市は予算を組むたびに300億円規模の収支不足を抱えていて(令和9年度予算編成の当面の進め方)、財政の話になると「敬老パスを見直せ」という声が必ず出ます。
この記事では、まず制度の中身(誰が・いくらで・どこまで乗れるか)を市の資料で整理し、そのうえで、市がいくら負担しているのか、その数字がどう動いてきたのかを並べます。結論から言うと、監視人は敬老パスを削る対象にすべきではないと考えています。
敬老パスとは:70歳以上の約40万人が持つ乗車証
敬老パスは、横浜市内に住む70歳以上の人のうち、希望する人に交付される乗車証です。市内の路線バス(市営・民営)、市営地下鉄、金沢シーサイドラインが、負担金を払えば乗り放題になります。1974年に始まった、50年以上続く制度です。
交付を受けている人の数は、この10年で次のように増えてきました。
2024年度の交付率(対象年齢の人のうち、パスを持っている人の割合)は**51.0%**です。70歳以上の2人に1人が持っている計算になります。出典は横浜市「敬老特別乗車証(敬老パス)」の交付者数の表と、健康福祉局の事業年報です。
2022年10月には紙のパスが廃止され、ICカードになりました。これで市は、誰がいつどこで乗ったかという利用実績のデータを取れるようになっています。
負担金額はいくら?本人の負担と市の負担
敬老パスの「負担金」には2種類あります。混同されやすいので分けて書きます。
ひとつは、パスを持つ本人が払う負担金です。所得に応じた段階制で、年額0円から2万500円までです。たとえば住民税が非課税の世帯なら年3,200円です。自分がいくらになるかは、市の敬老パスのページで確かめられます。
もうひとつは、市がバス会社などの交通事業者に払う負担金です。こちらが「敬老パスにいくら税金が使われているか」という話の中心になります。
| 年度 | 交通事業者への負担金 | うち市税 | うち利用者の負担金 |
|---|---|---|---|
| 2021年度 | 126億5,700万円 | 105億4,700万円 | 21億1,000万円 |
| 2022年度 | 124億1,900万円 | 103億100万円 | 21億1,700万円 |
| 2023年度 | 120億1,800万円 | 99億4,400万円 | 20億7,400万円 |
| 2024年度 | 123億5,100万円 | 103億2,400万円 | 20億2,700万円 |
| 2025年度 | 127億3,800万円 | 107億6,600万円 | 19億7,200万円 |
いずれも予算額で、出典は同じく市の敬老パスのページです。2025年度は、交通事業者に払う127億円のうち約85%(107億円)を市税で、残りの約15%(20億円)を利用者の負担金でまかなっています。
この5年で、市税の分は約2億円増え、利用者の負担金の分は約1億4,000万円減りました。持つ人が増えても、負担金の安い段階の人が増えれば、利用者負担の合計は減ります。高齢化が進むほど、市税の割合は上がっていく構造です。
単純に割ると、2025年度の市税107億6,600万円を2024年度の交付者40万4,761人で割って、1人あたり年およそ2万6,600円の税金が使われている計算になります(年度がずれた概算です)。
予算は145億円に:2026年度に何が増えたのか
交通事業者への負担金とは別に、カードの発行や事務の費用も含めた事業全体の予算は、2025年度137億2,500万円から、2026年度は145億9,800万円に増えました(横浜市 令和8年度予算案 資料編)。1年で約8億7,000万円、率にして6.4%の増加です。
増えた背景には、最近の制度の広がりがあります。
- 2025年4月から、75歳以上で運転免許を自主返納した人に、敬老パスを3年間無料で交付。この年の返納者は前年の約1.9倍になり、8,800人が申請しました(市の敬老パスのページによる)
- 2025年10月から、おでかけシャトルなどの地域の小さな交通でも、半額程度で乗れるようになりました。あわせて、自分の利用履歴を確認できるサービスも始まっています
つまり、ここ数年の敬老パスは縮小ではなく拡充の方向に動いてきました。
対象交通機関はどこまで?乗れる交通と乗れない交通
使えるのは、市内の路線バス(市営バスと民営バス)、市営地下鉄(ブルーライン・グリーンライン)、金沢シーサイドラインです。2025年10月からは、地域の交通(おでかけシャトルなど)でも半額程度で乗れます。
一方で、JRや私鉄の電車には使えません。横浜駅から乗る相鉄線や東急線、みなとみらい線などは対象外です。どの路線が対象かの最新の一覧は、市のページで確認してください。
監視人の見方:削る順番が違う。データで効果を示して守るべき
ここからは監視人の意見です。
横浜市の財政が苦しいのは事実です。予算編成のたびに300億〜400億円の収支不足が見込まれ、「敬老パスの107億円を削れば…」という議論は、数字の上では分かりやすい。しかし監視人は、敬老パスを削って財政を立て直すという発想に反対です。理由は3つあります。
1つ目は、外出を支えることが、医療や介護の費用を抑えることにもつながると考えるからです。 これは監視人の仮説で、横浜市のデータでまだ確かめられたものではありません。ただ、バスで出かけられる人を減らせば、目先の107億円は浮いても、別の財布(医療・介護)で支払いが増えるおそれがあります。また、免許返納者への無料交付を始めた2025年度に、返納者が前年の約1.9倍になったという事実もあります。返納が増えた理由はほかにも考えられますが、「車を手放しても出かけられる」手段として敬老パスが選ばれている、と監視人は見ています。
2つ目は、市にはもう効果を測るデータがあるからです。 2022年のIC化で、利用実績は取れるようになりました。市は市会の健康福祉・医療委員会に、IC化後1年の利用実績(2023年12月)と分析結果(2024年5月)を報告しています。しかし監視人が2026年11月1日時点で市の敬老パスのページと委員会資料を確認した範囲では、「敬老パスで外出が何回増え、それが健康や介護にどう効いているか」を市民が読める形で示した資料は見つかりませんでした。削るにしても守るにしても、まずこのデータを市民に出すべきです。 監視人の結論は「データが無いから守れ」ではなく、「効果を示すデータを出さないまま削る議論を進めるのは順番が違う」ということです。 数字で説明しないまま「見直し」の話だけが出てくる。監視人が今の横浜市政でいちばん問題だと考えているのは、この説明の不足です。
3つ目は、新しい市長の考えがまだ見えないからです。 2026年10月20日に就任した原沢敦美市長の2026年横浜市長選挙の選挙公報と公式サイトの政策には、敬老パスへの言及がありませんでした。地域交通については「新たな移動サービスの活用」に触れているだけです。年145億円の事業について、市長がどうするつもりなのか、これからの市会でのやりとりを監視人は追いかけます。
では財源はどうするのか。監視人の答えは、削るのではなく稼ぐことです。観光、企業誘致、そして山下ふ頭の使い方を含めて、横浜が自分で歳入を増やす道を本気で探すべきです。この点は横浜市の財政難はなぜ起きているのかで詳しく書いています。
よくある質問
横浜市の敬老パスは何歳から使える?
市内に住む70歳以上の人が対象です。65歳から使える制度ではありません。希望する人が申し込んで交付を受けます。
本人が払う負担金はいくら?
所得に応じて年額0円から2万500円です。住民税が非課税の世帯は年3,200円です。自分の金額は市の敬老パスのページで確かめられます。
相鉄線やJRにも乗れる?
乗れません。使えるのは市内の路線バス、市営地下鉄、金沢シーサイドラインと、地域の交通(半額程度)です。
運転免許を返納すると無料になる?
2025年4月から、75歳以上で運転免許を自主返納した人は、3年間無料で交付を受けられるようになりました。
出典:横浜市「敬老特別乗車証(敬老パス)」(交付者数・負担金・制度の変更)、横浜市 令和8年度予算案 資料編(事業全体の予算)、横浜市 敬老パス等の地域公共交通への適用について(地域交通への適用)、2026年横浜市長選挙の選挙公報(横浜市選挙管理委員会)。
この記事は事実(出典つき)と、監視人の意見を分けて書いています。意見は「監視人の見方」の節にまとめています。数字の誤りはお問い合わせからご指摘ください。