都市づくり・山下ふ頭
山下ふ頭の再開発はいつ、何ができる?IR撤回から5年の経緯と、2027年に固まる土地の使い道

この記事の要点
- 山下ふ頭(約47ha)は2021年のIR撤回後、5年かけて「緑と海辺」中心の事業計画案(GLOW)までたどり着いた
- 市は2026年度末に事業者の募集を始め、2027年末に事業予定者を選ぶ。供用は2030年代前半で、当初の予定より遅れている
- 国はIRの2回目の申請を2027年5月6日〜11月5日に受け付ける。横浜の事業者選定と同じ年
- IRで見込んでいた市の増収は年820億〜1,200億円。撤回後の外部検証でも年309億〜615億円。比べる数字が今の計画には示されていない
横浜の都心に残る最後の大きな土地、それが山下ふ頭です。広さは約47ha、そのうち45.0haが市の土地です。
2019年、横浜市はここをIR(カジノを含む統合型リゾート)の候補地にすると表明しました。2021年の市長選でIRに反対する市長が当選して撤回され、それから5年。市は「緑と海辺」を軸にした新しい計画を作り、2027年末には事業を担う会社を決める段取りです。
この記事では、まず「いつ・何ができるのか」を市の資料で整理し、そのあとで、IR撤回で何を手放したのかを数字で比べます。監視人の立場は、山下ふ頭はIRの候補地として残すべきというものです。
山下ふ頭再開発の経緯:IR撤回から事業計画案まで
山下ふ頭をめぐる主な出来事を、市の資料から時系列で並べます。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2015年9月 | 「横浜市山下ふ頭開発基本計画」策定 |
| 2019年8月 | 横浜市がIR誘致を表明。山下ふ頭を候補地に |
| 2021年8月 | IRに反対する市長が就任し、誘致を撤回 |
| 2021年12月 | 新しい事業計画に向けた市民意見・事業提案の募集を開始 |
| 2023年8月 | 山下ふ頭再開発検討委員会が発足(全6回) |
| 2024年12月 | 検討委員会が答申(緑と海辺空間・横浜らしい賑わい・持続可能なまち) |
| 2025年6月 | 「答申を踏まえた基本的な方向性」公表 |
| 2025年11月〜2026年1月 | 事業者への聞き取り(サウンディング調査) |
| 2026年3月 | 事業計画案を公表(コンセプト「GLOW」) |
| 2026年4〜5月 | 事業計画案への市民意見募集(3,535件) |
| 2026年9月15日 | 市会の委員会に事業計画(案)と審査委員会条例を提出 |
出典は横浜市港湾局「山下ふ頭再開発」と、経済港湾委員会資料「山下ふ頭再開発の取組状況について」(2026年9月15日)です。
市民の関心の高さは、意見の数にも出ています。
山下ふ頭に何ができる?事業計画案「GLOW」の中身
2026年3月に出た事業計画案のコンセプトは「GLOW」です。検討委員会の答申が掲げた3つの柱、緑と海辺の空間、横浜らしい賑わい、持続可能なまちを土台にしています。報道では「圧倒的な緑」の創出に力点を置いた計画と紹介されました。
事業の進め方は、市が土地を持ったまま民間の事業者が施設をつくって運営する、いわゆる民設民営です。計画には、ミュージアムやパビリオンといった要素が書かれています。かつてみなとみらい地区で検討された2,500席規模の劇場は、2021年12月に検討自体が中止され(市会資料)、今の山下ふ頭の計画にも劇場は明記されていません。
具体的な施設の配置や中身は、これから選ばれる事業者の提案で決まります。つまり**「何ができるか」の本当の答えは、2027年末の事業者選定まで出ません**。
いつ完成する?2030年代前半へ後ろ倒し
市の予定は次のとおりです。
- 2026年度末(2027年3月ごろ):事業者の募集を開始
- 2027年末:事業予定者を選び、事業化
- 2030年代前半:供用開始(使えるようになる)
もともとは2026年度ごろに事業化し、2030年ごろに供用する予定でした。数年単位で後ろにずれています。IR撤回から数えると、横浜の一等地が10年以上、本格的に使われないまま過ぎることになります。
IRを撤回して何を手放したのか:増収見込みの数字
ここからが、市の今の計画にはほとんど出てこない数字です。
2019年に横浜市がIR誘致を表明したとき、市は事業者からの情報をもとに、IRによる市の増収を年820億〜1,200億円と見込みました。納付金・入場料・法人市民税・固定資産税などを合わせた数字です。
撤回後、市が2022年にまとめた「横浜IRの誘致に係る取組の振り返り」では、外部の検証で、海外IRの実績を使った下振れの試算が示されました。それでも年309億〜615億円です。
比べるために大阪も載せました。大阪IRは2030年秋ごろの開業を目指していて、府と市あわせて年約1,060億円の納付金・入場料収入を見込んでいます(大阪府 区域整備計画の概要(2025年9月))。
横浜市は毎年、予算を組み始める時点で300億〜400億円の収支不足を抱えています(令和9年度予算編成の当面の進め方、詳しくは横浜市の財政難はなぜ?)。IRの増収見込みは収入の増加、収支不足は収入と支出の差で、性質の違う数字です。それでも、下振れの試算の下限、年309億円でさえ、毎年の不足と同じ桁だということは押さえておくべきです。
もちろん、IRには反対する理由もあります。いちばん大きいのはギャンブル依存症と治安です。ただ、国の調査では、依存が疑われる人が最もお金を使ったのはパチンコ(46.5%)とパチスロ(23.3%)で、カジノのない今の日本でも問題はすでに起きています(久里浜医療センター 令和5年度調査)。大阪は、増収のうち依存症対策(約14億円)・警察(約33億円)・消防(約4億円)・インフラ維持(約4億円)の必要経費を、年約55億円と見積もっています。横浜が誘致していたときの増収見込みに、こうした費用をどれだけ見込んでいたかは、同じ形では示されていません。IRを検討し直すなら、増収と同じ表に、依存症・治安・交通の費用を並べるのが最低条件です。
2027年という年の意味:国のIR申請と事業者選定が重なる
国は2026年3月、IRの2回目の申請期間を2027年5月6日〜11月5日と決めました(観光庁)。認定は全国で最大3か所で、今は大阪の1か所だけ。残りは2枠です。
一方、横浜市が山下ふ頭の事業予定者を選ぶのは2027年末。国の申請期間が終わった直後に、山下ふ頭の使い道は民間の事業者とともに固まります。事業者が決まって施設の整備が始まれば、そのあとで土地の使い道を大きく変えるのは現実的ではありません。IRという選択肢を残すかどうかは、事実上この時点で決まる、と監視人は見ています。
IRの申請には、自治体が事業者を選び、区域整備計画をつくり、議会の議決を得るといった手続きが必要です。北海道は手続きが間に合わないとして、来年の申請を見送ると報じられました(北海道新聞 2026年10月24日)。監視人が確認した範囲では、横浜市に2027年の申請に向けた準備の動きはありません。今回の申請期間に横浜が間に合うのは難しい、というのが監視人の見立てです。だからこそ、次の機会まで山下ふ頭という選択肢を残しておけるかどうかが問われます。原沢敦美市長は2026年10月20日の就任会見で、IRは任期中に「やることはない」と明言したと報じられています(神奈川新聞、Yahoo!ニュース)。ただし同じ会見で、山下ふ頭の計画については「手続きに問題があれば変更の可能性はある」とも述べています。
監視人の見方:比べる数字を出さずに、47haを固めるな
ここからは監視人の意見です。
監視人は、山下ふ頭はIRの候補地として残すべきだと考えています。IRが生む収益を依存症対策と治安対策に回せば、パチンコなど既存のギャンブルで苦しむ人も含めて支援が届き、IR導入前より状況を良くできる可能性がある、というのが監視人の仮説です。この仮説は、大阪や海外の実績で、支持する数字も反証する数字も追い続けます。
そのうえで、今の進め方には2つの大きな問題があります。
1つ目は、比べる数字がないことです。 IRなら年309億〜1,200億円という増収の見込みが市の資料にありました。では「GLOW」の計画で、市にはいくらの税収や地代が入り、何人の雇用が生まれるのか。IRと並べて比べられる形の数字を、監視人は2026年11月1日時点で、市の山下ふ頭再開発のページと2026年9月15日の経済港湾委員会資料の中に見つけられていません。横浜の一等地47haの使い道を決めるのに、稼ぐ力の比較を示さないのは説明不足です。
2つ目は、成長戦略として何を狙っているのかが見えないことです。 新市長は選挙で、観光やエンターテインメント、企業誘致で「稼ぐ力」をつけると訴えました。その方針と山下ふ頭の計画がどうつながるのか。緑の多い公園的な空間は市民にとって魅力ですが、それだけで毎年300億円規模の収支不足を埋められるわけではありません。
山下ふ頭は、横浜が自分で稼ぐ力をつけるための最大の手札です。2027年末に事業者を決める前に、IRを含めた選択肢ごとの収入・雇用・費用を並べて、市民に示すこと。それが最低限の手順だと監視人は考えます。市会での議論と、2026年度末に出る募集要項の中身を、これからも追いかけます。
よくある質問
山下ふ頭の再開発はいつ完成する?
市の予定では、2027年末に事業予定者を選んで事業化し、2030年代前半に使えるようになる見込みです。当初の予定(2030年ごろ)より遅れています。
山下ふ頭に何ができる?
コンセプトは「GLOW」で、緑と海辺の空間、横浜らしい賑わいを軸にしています。具体的な施設は、2027年末に選ばれる事業者の提案で決まります。
横浜でIRが復活する可能性はある?
原沢市長は任期中にIRを「やることはない」と明言しています。国の2回目の申請期間は2027年5〜11月です。北海道が手続きが間に合わず見送ったと報じられており、準備をしていない横浜が申請するのは極めて難しいと監視人は見ています。
出典:横浜市港湾局「山下ふ頭再開発」、経済港湾委員会資料(2026年9月15日)、山下ふ頭再開発の方向性について(答申)、横浜IRの誘致に係る取組の振り返り、観光庁 IR区域整備計画の申請受付、大阪府 区域整備計画の概要、久里浜医療センター 令和5年度ギャンブル障害調査 概要、報道(就任会見 2026年10月20日、北海道の申請見送り 2026年10月24日、朝日新聞 2026年3月)。
この記事は事実(出典つき)と、監視人の意見を分けて書いています。意見は「監視人の見方」の節にまとめています。数字の誤りはお問い合わせからご指摘ください。